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福岡高等裁判所 昭和24年(つ)1022号 判決

被告人

李善俊

外二名

主文

原判決を破棄する。

本件を福岡地方裁判所に差戻す。

理由

鶴弁護人の控訴趣意第一点中原審が裁判官の証人金光一に対する尋問調書及検察官の金光一に対する供述調書を証拠に引用したのは違法であるとの点及内田、元木両弁護人の各控訴趣意第二点について、

原審が被告人等に対し有罪の言渡をした判決の証拠の標目中に裁判官の証人金光一に対する尋問調書及び検察官の金光一に対する供述調書を掲げて居ることは原判決によつて明かであるが記録によると後者の供述調書は検察官が犯罪搜査の為金光一を取調べた際作成されたもので、前者の尋問調書は検察官が右取調後公判期日前に刑事訴訟法第三百二十七条による請求をした結果裁判官が金光一を証人として尋問し作成されたもので、いづれもその供述の内容の中には原審が有罪と認定した事実中被告人等が本件平和丸によつて朝鮮に密航するのである旨を金光一が被告人朴相温から聞知した事実を包含し居ることは右二個の調書の記載によつて明かである。即ち右二個の調書は所謂伝聞を伝聞した証拠に外ならない。ところで我が刑事訴訟法は直接の傳聞証拠については同法第三百二十条を以つてその証拠力についての原則を規定しその例外については同法第三百二十一条以外順次これを規定して居るが本件のような伝聞の伝聞についての証拠の証拠力に関しては何等の規定を置かないので或はかかる証拠については全面的に証拠力を認めない趣旨であるとの論旨も樹たないとはいえない。しかしながら本件のごとく犯人が犯行の直前乃至は犯行の途上その犯行計画等を漏らした場合これを聞知した者の証言が何等かの事由によつて公判廷に現出し得ないとき偶々公判廷外においてかかる者の供述を録取した書面の存する場合その書面の証拠力を否定することに相当でない故にかかる書面については矢張り刑事訴訟法第三百二十一条以下の規定の趣意に準じてその証拠力を認めて差支えないものといえる。そこで記録を精査すると検察官は公判廷において右二個の調書を証拠として提出するにあたり金光一は国外に居るため公判期日において供述できないものであると告げたことはその旨公判調書に記載があるが、かかる検察官の主張事実を肯認し得るような資料は記録中何処にも存在せず且つ各被告人ともに右二個の調書を証拠とするについて不同意の意思を表示していることは同期日の公判調書のその旨の記載によつて明かである、然らば結局原審は証拠とすることのできない証拠をもつて被告人等に対し有罪の事実を認定したことになるので原判決には訴訟手続に法令の違反があり且つその違反が判決に影響を及ぼすことが明かな場合であるから破棄を免かれない。

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